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サービタイゼーション実現に必要なこと、アフターサービスを見直そう

シンクロン・ジャパンは2018年11月27日、同社主催セミナー「グローバル製造業/エグゼクティブセミナー2018 世界で戦う強い製造業の条件~AI/IoT時代を勝ち抜くアフターマーケット改革」を開催した。

スウェーデンに本社を置くシンクロン(Syncron International)は、アフターサービスパーツ管理ソリューションを展開するクラウドソリューションベンダー。今回のセミナーでは、製造業のアフターサービス領域における収益化の重要性や、その先に見据えるモノ売りからコト売りへの転換など「サービタイゼーション(サービス化)」実現の可能性について訴求した。

サービスパーツ在庫適正化を推し進める日立ハイテクノロジーズ

本セミナーの最初のセッションでは、特別事例講演として日立ハイテクノロジーズのサービス・ソリューション事業推進本部で本部長を務める本間一尚氏が、同社のサービスパーツマネジメントに関する取り組みを紹介した。

半導体製造装置や医用機器などを手掛ける同社では、製品販売の軸足が海外市場に移りつつあること、そして製品の長期継続利用ニーズが高まっていることなどを背景として、これまで課題であった海外顧客への納期順守率の改善と在庫量の適正化を目指し、サービスパーツマネジメントの強化に力を入れている。このため、管理状況の見える化による需要予測とこれまで数種に分かれていたKPIの統合が急務だったとする。

そこで同社では、2016年第4四半期からシンクロンを含めた複数のサービスパーツ管理ソリューションの導入検討を始め、2017年度にシンクロンを選定。その後、システム設計を進め、2018年5月から日本、韓国、台湾の各地域でERPと連携させた「Syncron MasterData」と「Syncron Inventory」の先行導入を開始している。

これらソリューションを先行導入した日立ハイテクノロジーズだが、将来的にはサービスパーツマネジメントの業務について、代理店を含めたグローバル全体での在庫管理、全拠点での納期順守および見える化、熟練者に属人的であった業務プロセスの均質化と効率化を目指すとする。

本間氏は、現時点における活用事例を紹介し、実務担当者についてはサービスパーツの「補充推奨数の自動生成と承認」「欠品リスクのアラート」、管理者については「在庫状況などのシステム標準KPIレポート」「納期順守率などの同社独自KPIレポート」といった機能を用いていることを説明した。

特に、補充推奨数の自動生成と承認機能について、本間氏は「従来は各担当者が経験則で発注点を決めて発注しており、在庫状況が乱高下する部品は在庫切れや在庫過剰が発生していた。同機能ではシステム需要予測に基づいた推奨発注数量で発注するとともに、重要部品は経験者のアナログな知見も活用することで、業務の均質化と効率化を狙う」とメリットを示す。

今後、さらなる在庫適正配置による納期順守率の改善を行うとともに、在庫金額の削減と在庫不足の解消を達成するため同ソリューションの展開拡大を図るとし、「3年以内の体制確立を目指す」(本間氏)と展望を語った。

アフターサービスの未来をつづるシンクロン

基調講演では、シンクロンでCMO(最高マーケティング責任者)を務めるGary Brooks(ギャリー・ブルックス)氏が登壇。従来の製造業が行っていた故障対応型のアフターサービスから、予知保全などの稼働時間を最大化するサブスクリプション型アフターサービスへの移行が進みつつあることについてさまざまなデータを用いて示し、リカーリングビジネスへの転換を同社が支援することを強調した。

同社では、世界の製造業企業200社とその先の顧客企業100社に対して、「自社が製造する、または使用する製品の稼働時間最大化」に関するマーケティングリサーチを実施し、独自の調査結果を得たとする。その調査結果によると、98%の顧客が「稼働時間の最大化を保証するサービス契約を望んでいる」ことや、また82%のメーカーが「顧客から稼働時間最大化の提供を求められていると考えている」と回答したという。

しかし、「自社は稼働時間最大化のサービス提供ができる立場にある」と回答したメーカーは25%しかいなかったという。Brooks氏はこの現状について「多くの顧客が望んでいると分かっているにも関わらず、ほとんどのメーカーが稼働時間最大化のサービス提供に対応できていないと回答するのは興味深いことだ」とコメント。また、57%の顧客が「稼働時間を最大化できるのであれば追加コストを支払っても良い」と考えているという。

そこで同社は各界の専門家と協議したうえで、現在および未来のアフターサービスを次のように描いたとする。現在主流となる「Reactive(反応的な)」「Preventive(予防的な)」アフターサービスは製品がIoT(モノのインターネット)に対応していないため、故障発生時もしくは定期的なスケジュールに沿って部品交換を行う。この手法は、保守部品の在庫コストやメンテナンスコストの低減を主眼としていた。

現在、先進的な一部企業では「Predictive(予報的な)」なアフターサービスを提供し始め、そして将来では「Proactive(率先的な)」アフターサービスが求められるという。これらのアフターサービスでは、IoT活用により製品稼働状況のリアルタイム把握が可能になるため、稼働状況に応じた保守契約で包括的なコスト低減を図ることができる。Proactiveアフターサービスでは、メーカーは稼働時間最大化の価値を訴求するようになるという。

Brooks氏は「シンクロンはロードマップの全段階にフィットするソリューションを用意している」と語る。特に同社では、PredictiveやProactiveアフターサービスに対応する新製品「Syncron Uptime」の開発を進めている。同製品は、既存のメンテナンスシステムやIoTプラットフォームなどと連携し、稼働状況の可視化や予測機能を提供することで予知保全を実現するクラウドソリューションだ。現在、先行顧客とともにベータテストを進めているとし、2019年春頃の正式リリースを目指しているという。

革新的な価値の提供にはサービタイゼーションが必須

また、Brooks氏はMONOistの取材に対して、サービタイゼーションを推し進める企業とそうでない企業が二極化しつつあることを指摘。「サービタイゼーションは売上や収益の改善を狙うチャンスだ。サービタイゼーションに対応しない企業は衰退の道を描くようになるだろう」と強く主張した。

Brooks氏は、欧米において「Comfort as a Service」といった冷暖房や空調器具のレンタル型ビジネスが浸透し始めていることや、ポルシェなどの高級車メーカーが自社の車両をサブスクリプション契約で利用できるビジネスを始めたことを例示し、これらサービスでは機器稼働率向上が非常に重要な要素だと認識を示す。

「法人向け(B2B)メーカーだけでなく、民生向け(B2C)メーカーにもサービタイゼーションは顧客に対して革新的な価値を提供する源泉になる。これから先の10年でアフターサービスに大きなシフトが起こるだろう」とBrooks氏は語った。