アフターマーケットという事業領域を大別すると、修理保守に使用する部品を供給する事業と、その部品を利用して保守メンテナンスを実施するサービス要員の派遣事業に分かれるが、本稿では部品供給の事業面をメインに扱う。

なぜならば、アフターマーケット事業の性質上、保守部品がなければ事業そのものが成り立たないため、この保守部品の供給がアフターマーケットを事業として成功に導く大きな役割を果たしているからである。そして、この保守部品の供給について実際の業務従事者が口をそろえることは、上述の誤ったイメージとは全く裏腹に部品ビジネスには難しい課題が山積しているという事実である。

それでは、部品ビジネスの課題を解説したい。

1. 保守部品は多品種多量で管理点数が膨大

1つの製品を形作るためには多数の部品を必要とする。一般的に自動車1台には2万点余りの部品が使われているといわれており、それを前提として考えれば身の回りにあふれる様々な工業製品も、数十、数百、数千の部品が使われていることは容易に想像していただけると思う。そしてその多数の部品は、製品自体が販売中止となった後も、補修用途のために用意されていなければならない。製造業は、何時、どのようなタイミングで、どれ程の数量の要求が入るか判らないこれらの部品を、保守用途が発生した時点で確実に供給できるように保持しておかなければならない訳である。

しかも、製品自体は一つではない。新製品として世の中に出たタイミングで、いくつかのバリエーションを持っている場合もあるだろうし、当然、何年かごとにモデルチェンジも繰り返していく。したがって、製造業としては、膨大な種類、膨大な数量の部品を、一定の期間、管理し続けなければならない責務を担っている訳である。

2. 保守部品は複数拠点でそれぞれ過不足なく管理されるべき

保守部品は迅速に供給されなければならない。顧客側の許容時間を大幅に過ぎるようなことがあれば、それは顧客満足度の低下に直結し今後のビジネスに大きな禍根を残すこととなる。

ゆえに配送時間の短縮を考えれば、それらの保守部品を1つの倉庫で管理するのではなく需要地に近い拠点倉庫に分散しておくことも良く取られる手段だ。そこで課題となるのが、それらの複数拠点でどのような部品がどれだけの数量で在庫されているのかといった把握がとても難しいことである。

多くの企業ではシステム化をすることによって個別拠点の在庫把握はできるようになっている。一方で、複数拠点、特に国をまたがって在庫管理を行う場合はそれぞれのシステムが異なることもありえることから、全体在庫の可視化に大きな課題を持っているケースも散見される。もちろん、そのサプライチェーンの先に経営が全く別の独立系のディーラーネットワークが存在すれば、その課題はさらに大きくなる。そもそも、それらの複数拠点にどの部品を何個配備すべきなのかの計画を立てることにも大きな苦労が伴っている。

各部品に対する最終顧客やディーラーからの受注は、その都度まちまちで数量も含めて決まった法則などはありえないし、それぞれの部品の発注に関してもサプライヤから納入されるリードタイムはバラバラである。保守部品ビジネス従事者の頭痛の種は、部品の複雑なサプライチェーン全体を俯瞰(ふかん)しながらなるべく正確な需要予測と最適化された在庫配置にあるといっても過言ではない。

3. 保守部品の価格設定は繊細になっている

製品を作っているメーカー自体が供給する保守部品は、純正部品と呼ばれている。そしてほとんどの場合、純正部品は高価であるというイメージが持たれている。なぜならば保守部品ビジネスは昔から高収益ビジネスであったため、この保守部品の領域で廉価な海賊版部品を売る業態が既に一部の部品分野では長く一般化しているためである。

特に昨今では、純正部品の部品番号からインターネットを用いて適応する海賊版部品の情報を調べるだけでなく、そのまま通信販売サイトで購入できるようにもなっている。以前にも増して部品需要が海賊版部品に流れやすくなっている訳だ。また、同等の他社製品純正部品に関する価格情報も調べることが可能である。

したがって、例えば製品の稼働上必要な消耗部品の価格から将来的な製品の保有コストを容易に算出することもできるわけで、これが製品選定の上での大きな要素にもなっている。ことほど純正部品の価格設定は非常に重要になりつつあるわけである。魅力的な価格を設定することによって、製品そのものの選定をしてもらい、かつ海賊版部品に流れる顧客を捉えることが出来ればより企業収益を向上できることは明白である。

では、なぜ今まで純正部品は結果的に海賊版部品に流れてしまうような部品価格に設定されてしまっていたのであろうか? 理由は、保守部品の管理点数が多く顧客の琴線をくすぐるような魅力的な価格設定ができる工数の確保が難しかったからだ。それゆえ、原価の上にマージンを乗せるだけの原価積上げ方式の単純な価格設定しかできなかった。

さらに、価格は基本となる価格を参照して製品の展開地域に即した地域価格の設定や商流の中の卸値も設定しなければならないし、地域や商流の中における移転価格まで設定する必要がある。本来であれば、それら全てにわたり設定価格におけるマージン分析をし、価格の最適化を実施した上で価格表への記載をしなければならない。しかし、そこまで確実に実施するには膨大な工数が必要である。

魅力的な価格設定は、保守部品ビジネス従事者とって前述の需要予測と在庫配置の課題を片付ける間もなく降ってきた、新たな頭痛の種になりつつあるといえるかもしれない。

以上3点を課題として挙げたが、これらの課題を課題たらしめている真の課題が別のところにあると筆者は強く確信している。それを次に日本とグローバルでのアフターマーケット業務に対する取り組みの違いとしてご説明したいと思う。

日本のアフターマーケット、グローバルでのアフターマーケット

日本とグローバルでのアフターマーケット業務に対する取り組みの最も大きな違いは、合理化を前提としたシステム活用の心構えと特に海外子会社に対する企業統治の徹底度合いではないかと思っている。これはアフターマーケットに限った話ではないが、日本企業は一般的にITシステムを効果的に使用した業務の効率化が欧米企業に比べて著しく遅れているところがある。

前時代的な業務プロセスを大きく変えることなく、部分的にシステムを当てはめて業務を一部改善するにとどまるケースは枚挙にいとまがない。また、文化的、言語的に日本の本社から海外拠点に業務指示を徹底できず、本社と海外拠点子会社とで同じ業務を別のシステム、別のやり方で対応しているという話も良く耳目に触れるところである。

前回記事にも述べているが、日本のアフターマーケットは社内において投資や業務改革の的となることもなく、一般的に特に関心を持たれない事業になっているようだ。それゆえに、企業内の資本投資順位もかなり低い場所に位置し続けており、業務プロセスの見直しやシステム化もほとんど進んでいない状況にある。

日本のアフターマーケット

一部の超大企業においては自社内でシステムを構築して需要予測、在庫配置計画、価格設定をしているケースは散見されるが、それは日本の製造業全体を俯瞰した時の氷山の一角でしかない。また、それらのケースにおいても日本国内のビジネスのみを想定して作られたシステムであるがゆえに、事業のグローバル展開に際して拡張が困難であったり、改修に多大な工数がかかると試算されたりもしているようである。

それゆえに、国内外のシステムの統合も業務プロセスの見直しも先送りにされ続けているようである。そもそもの国内システムも勘と経験と度胸をもって専任の担当者のみが利用可能なものとなっており、例えば需要予測等々の業務も先端的な数学的統計分析手法を用いたものとは全く隔たりがある例も見受けられる。

また、担当者の高齢化により業務上の暗黙知を若い世代に形式知化して引き継ぐことがなかなかできないという、社内での業務継承に多くの苦労が発生しているという話もよく聞くところである。

アフターマーケットに限らず、上手にシステムを利用してより洗練されたプロセスを少ない人材で回しより大きな効果を目指そうとしないことが、今後労働人口が急速に減少していく中で日本の製造業における看過できない大きな課題だと思われる。さらに、人口減少に応じて国内需要が減少していく中で効率的に海外子会社を企業統治して経営をグローバルシフトすることをそろそろ真剣に考えなければならない。

グローバルでのアフターマーケット

実は一部の先進的な企業を除き、10年前の欧米でもアフターマーケットの具体的業務内容は現在の日本と似たような状況であった。しかしながら、現在の欧米ではアフターマーケットは最も力を入れるべき事業分野の1つとして認識と業務遂行方法が大きく変わってきている。

理由は上述した通り、アフターマーケットが高収益で不況に強く顧客満足度を大きく左右し、今後の企業のあり方の大きなヒントを得られる事業分野であることが、それぞれの企業の経営層に理解されてきているからなのである。

それを決定づけたのが2008年の米国発の不況の発生であった。不況が訪れた際、多くの企業は色々な施策を講じながらその大波が過ぎるのを待っていた訳であるが、その中で大きく企業収益を確保していたのがアフターマーケット事業だったことが事後の分析の結果見えてきた。

さらに踏み込んでアフターマーケットの業務分析まで実施した結果、製品系ビジネス領域ほどシステム投資が進んでおらず、その業務プロセスには多くの人間系のプロセスが介在しており、主力である製品系ビジネスほどシステム的にもプロセス的にも洗練されたものになっていないことが判明した。

そこで彼らはこの分野をシステム化してより合理化した業務プロセスに革新すれば、さらに高収益で不況に強い企業体質を作ることができるのではないかということを考えた訳である。したがって下図のように、従来は売上同様に対製品比率で小さかったIT投資比率を高める方向に舵を切り始めている。

現在では、過去の部品販売実績を数学的に分析して将来需要を予測し、自社の複数倉庫における部品配置計画を立案する。さらには商流の先にある独立系販社代理店の部品の在庫補充までもメーカー主導で実施し、末端での部品即納率を向上させながら部品サプライチェーンを減量化するキャッシュフロー経営に取り組んでいる事例も当たり前となった。IoT(モノのインターネット)を活用して予知保全に積極的に取り組むケースも増えている。

いつ需要があるかわからない部品を在庫するのではなく、需要が発生した際に、3Dプリンタを活用して必要部品を制作するという手法も取られ始めた。この3Dプリンタも需要地に設置しておいて、そもそも供給そのものの時間を省くことも模索されている。

日本製造業はアフターマーケットに対して早急な業務改革を

第二次大戦後の日本の製造業は、米国の物量作戦の前に敗北した経験からTQC(総合的品質管理)活動に基づいて高品質製品を大量に製造し、良品廉価を基軸にマーケットシェアを広げていくことを戦略としてきた。

その結果、高度経済成長期を通じて製造業全体が均質化した製品の大量生産・大量供給、いわゆるモノづくりにのみ注意を向け、アフターマーケットに関心が向かなくなってしまったのではないかとすら考えられる。さらに日本人ならではの生真面目さでとにかく壊れないものを作るという姿勢が、製品が壊れること/消耗することを前提とするアフターマーケット事業から多くの目を遠ざける遠因となっていたのではないかとも考えられる。

対して欧米地域では、アフターマーケットは必要業務として認識されていた。例えば、アフターマーケット事業に関連するセミナーなどは2000年代から各地で一般的に開催されており、アフターマーケットに特化したサプライチェーンの改革や部品の価格付けのコンサルティングサービスが、同じく一般的に展開されている。

実は日本ではアフターマーケットに特化した何らかの展示会が開催されたことすら、不思議なことに未だかつて一度もない。日本におけるアフターマーケットは製造業の縁の下の力持ちのまま現在に至っており、現時点でアフターマーケット事業に対する経営姿勢、システム投資において日本は欧米から大きく水をあけられつつある状況に来ている。

事業としての重要性を鑑みれば、アフターマーケットに対して今から早急な業務改革を実施すべき時に来ていると考える。